Photo : Taro Mizutani
色即是空、空即是色
中山さんの作品を観てこの言葉が浮かびました。
日本には、無常観を表現した鴨長明の『方丈記』の有名な一節があります。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。 淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。 世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。
このような世界観を仏像の衣にみられる美しいドレープに見出し、リサーチを進めました。
現在のパキスタン西北部にあるガンダーラ地方を中心に、紀元前後から5世紀頃まで栄えた仏教美術、ガンダーラ美術があります。ギリシャ仏教美術とも呼ばれるこの美術様式は、ギリシャ、シリア、ペルシャ、インドの様々な美術様式を取り入れた仏教美術です。
インドで生まれた仏教は当初、偶像崇拝を否定していましたが、この地でギリシャ文明と出会い、仏像を初めて生み出しました。インドをはじめ、中国や日本にも伝わり、大乗仏教も生まれました。異なる文化や思想と交わり新しいものが生まれるストーリーが、中山さんの作品の世界観と重なりました。
ガンダーラ美術の仏像の表情は少し西洋的で、自然な曲線で深く刻まれた眉から鼻筋にかけて伸びるラインが特徴的です。これに沿ってヨークを取れば、背中の肩甲骨部分から背骨にかけて、一本のラインで後身頃を身体にフィットさせることができます。この部分以外のボディはできるだけ布一枚で表現し、胸から足元にかけて波のように翻るドレープを作りました。
アームホールに線形模様のリブ編み生地をパネルに使用し、曲線美を際立たせると共に、衣服としての可動性を持たせました。メインの素材は塗料や染料の浸透に対応できるよう、高密度に織り込まれ撥水性のあるVentileを使用しました。また、パフォーマンス中に使用されるチューブを通すホルダーとして後ろ襟の下部分にタグを挟み込みました。