前回のコレクションの製作が終わった時に、何となく次のコレクションはグリーンかなという意識が生まれました。前シーズンの撮影で訪れた砂丘や港町で、砂地から無数に生える植物や、廃れた建物を覆い隠すツタの葉を見て、荒廃した世界に新たな生命が芽吹く光景が浮かんだのだと思います。
そこで、前作で引用した映画と同様のプロローグで始まる、腐海をテーマとした日本の漫画/映画に注目しました。文明と自然の対照関係、そしてその二つの要素を内包する腐海の存在。
その物語では、ヒロインが腐海の意味を探求し、その真実を伝播することで、文明と自然が互いを抹消することなく、ある種の調停が生まれ、崩壊した世界の再生へと繋がります。
昨年秋ごろ、ロンドンで販売会を開催した際に、友人に連れられ、Barbican centreに行きました。映画館や図書館などの文化施設と、温室や中庭の植物が、無骨なブルータリズム建築の中に共存していました。その光景がコンクリートジャングルの中に突然現れた時に、探していたものが見つかったような気がしました。
人工物と自然物から想起される形や表情が、一つの素材やルックの中で混じり合い共存するようなコレクションを製作しようと考えました。
タイルのようなパターンで織り込まれたシルクモールのジャカード生地、古びた青銅器のようなムートン、擦れた鎧のようなレザーは、元の天然素材とは対照的なモチーフを表現しています。
堅牢なベンタイルコットンや、立体的なニットは、建造物の外壁やそこに生い茂る苔を表現しました。
本コレクションのカラーパレットは、青々と生い茂る植物からくるポジティブなグリーンと、軍服や戦車を想起させるネガティブなグリーンの2色を中心に構成されています。対照的な意味を持つ二つの同系色が調和するよう、ベージュや玉虫色を差し色として使用しています。
着用者として想像したのは、引用元の作品にも登場する遊牧民の姿です。体系的なルーツを持つ洋服が、彼らの生活に合わせ自由に組み合わせられる様子をイメージしました。
ウクライナ本土とクリミア半島の間に横たわる、アゾフ海の西岸には、「腐海」と呼ばれる干潟が広がっており、その周辺では未だ戦争が続いています。争いや災害で混沌とした世界が1日でも早く平和になるよう祈るばかりです。